『葉とらずりんご』と、初めて聞かれた方は逆にそう思われるかもしれません。
皮が赤い品種のりんごは“皮の表面に太陽光が当たること”で赤く色づきますので、ムラのない真っ赤なりんごにする為には葉っぱがジャマでした。
太古より果樹は自身の実を動物や鳥に食べてもらい、そのタネを遠くに運んでもらうことで仲間を増やしてきました。動物たちに食べ頃の果実を見つけてもらう為に、色付いて目立つことは重要でしたが、ムラなくきれいに染まる必要はなかったのです。近年のりんごは先達の努力により改良を積み重ねてどの品種も美味しくなっています。
私たちは『葉とらずりんご』栽培を通じ、それ以前に大自然の恩恵を受けて“今、このりんごがある”という事を常日頃から実感しています。そして、お客様からの「今年も美味しかったよ」のお声を励みに・・・、
『葉とらずりんご』はパッと見、色がまだらで見栄えが良くないため売れにくく、卸売や小売から敬遠されているのが現状です。ですので、近年葉とらず栽培の農家が増えているものの、そのほとんどが自身の販売ルートでお客様に届けています。
当園では1978年(昭和53年)から先駆けて『葉とらずりんご』栽培をはじめ、その美味しさを地道に伝えることで毎年少しずつお客様が増えるようになり、現在に至っています。
沢山の葉っぱが光合成を行い、栄養(でんぷん)から甘味(糖)となり果実に限界まで注ぎ込んでいるので味わいと甘さが濃厚になります。また、果実が熟しはじめて糖分が増え、気温が下がってくると皮の細胞の中でアントシアニンという色素が生成されて赤く色付いてきます(※品種によります)。
『葉とらずりんご』栽培ではその糖分を果肉に留まらせることができ、色ムラ具合を気にせず樹の上でしっかり完熟させられるので、美味しさと食感が長持ちするため『いつ食べても美味しいりんご』になります。(※年ごとの気候により甘味は変化します。)
重なり合った葉が日傘のように果実を直射日光から守ってくれるため水分蒸発を防ぐことができ、りんごとは思えない程ジューシーになるのが『葉とらずりんご』のもうひとつの特長です。
また、蜜が入りやすいサンふじなどの品種では、より多くの蜜の元「ソルビトール」を果実に届けることができるため更に蜜が良く入ります。 (※蜜は収穫後しばらく保存しておくと果肉全体に分散して見えなくなりますが、甘さは変わりません。)
「葉っぱを取る作業がない分、あまり手間が掛からないのでは?」と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。
やはり人に感受性がある以上「きれいな赤色」に食欲をかき立てられ、目で美味しさを想像 することも大切な事ですので、当園では果実を一つずつ陽の当たる方に回転させたり、影になりがちなりんごの枝葉に支柱を立てて持ち上げるなど、葉は残しつつ、わずかな隙間からでも太陽光が当たるよう、収穫までに幾度となく調整しています。
また、りんごの出来は冬季期間の剪定が最も重要とも言われます。それは剪定が美味しい果実を実らせる「基本のき」作りをする仕事だからです。先に述べた工夫を最大限に活かすためにも一本一本の木の特性を見極めながら剪定を行うようにしています。連携農家にもその栽培方法を惜しみなく伝え、実践してもらうことで「葉とらずりんご」の品質の均一化を行なっています。
当園では『葉とらずりんご』栽培に適した土壌になるよう有機肥料を用い、化学肥料は一切使っていません。除草剤も一切使わず、手間はかかりますが刈取り機で定期的に除草を行っています。
その甲斐あってミツバチやトンボ、てんとう虫、土の中にはミミズなど多様性に富んだ生き物たちが住み、一緒にこの畑を作ってくれています。また植樹をする際は、一反歩(約1,000㎡)につき通常20本程の苗木を植えますが、当園ではあえて15本程に抑えて風通しを良くすると共に1本の樹に土の栄養と日光を十二分に行き渡らせる工夫をしています。
会長(二代目園主)より
私が先代から農園を引き継いだ昭和50年、日本は経済発展でゆとりのある生活を手に入れ、きれいな住まいや洋服、見た目重視の野菜や果物がスーパーに並ぶようになりました。そしてりんごも例外ではなく、ムラのない真っ赤な見た目が求められていました。
農園を引き継いですぐに、『葉っぱはりんごを作る大事なものなのに、とっちゃうなんて…』と、葉を摘むことに疑問を感じ、様々試したりいろいろな勉強を重ねました。
そうして気づいたのは、葉を摘まないりんごは明らかに味が良くなること、さらに樹木自体の状態が良くなり実がたくさん成る(収量が上がる)ということです。
「葉とらず栽培」に確信を得た私は、農園を継いで3年後の昭和53年、すべてのりんごを葉とらずに切り替え、直接お客様へお届けする産地直送の通信販売をスタートしました。
あの頃は今のようにインターネットもなく通信販売だけで売ることは困難を極め『あの家今に夜逃げする』と周りから言われたものです(笑)。市場ではその見た目からまったく値段がつきませんし、葉とらずなんてものは売れっこない、と皆が100%思う時代でした。葉とらずりんごを始めてからは友人知人には大変な協力をしていただき、今でも感謝しています。
売るのには大変苦労しましたが、「葉とらず栽培」の美味しさへの確信は年々強くなっていきました。そしてご支持いただくお客様も段々と増え、葉とらず栽培をやり始めて20年、ようやく全てのりんごを売り切ることが出来たのです。
そして今、葉とらずりんごの想いを引き継ぎ、息子二人が農園を盛り立ててくれているのが何より嬉しく思っています。